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コンクリート構造物の補修・補強に関するフォーラム、コンクリート構造物の補修・補強材料情報
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はじめに

コンクリートメンテナンス協会の考えるコンクリート補修のあるべき姿

~コンクリート構造物の定量的な維持管理~

 コンクリート構造物の点検、調査、診断、補修、補強などの維持管理業務に対する関心が高まり、それらの重要性が広く認識されるようになりました。それに伴ってコンクリート構造物の維持管理の取り組みも黎明期から成熟期へと移行しつつあると実感しております。
 我々はこれまで多くのコンクリート補修工事に携わってきた経験がありますが、黎明期に経験した補修工事の内容を見ると、『ひび割れが生じているからひび割れ注入を行う』『鉄筋露出しているから断面修復を行う』といった、いわば変状に対する対処療法的な工法選定が多かったように感じます。ここに欠落していたのは、『なぜひび割れが発生したのか?』『なぜ鉄筋が腐食したのか?』という根本的な原因推定です。劣化原因も明確にしないまま闇雲に補修を行っているわけですから、せっかく補修を行ったにもかかわらず多くの構造物に再劣化が発生しました。
 やがて、塩害、中性化、アルカリシリカ反応(以後、ASRと称す)などの劣化に関する知見も整理蓄積され、その調査方法なども確立されていきました。コンクリート構造物に生じたひび割れや浮き・はく離などのさまざまな変状に対し、詳細調査、室内試験等を実施して劣化機構を明らかにするという手順を踏むことが一般的となり、劣化の原因を特定してその劣化機構に対して効果があるとされる補修工法、補修材料が選定されるようになりました。補修分野の新材料、新工法が精力的に開発され、補修のメニューはたいへん豊富な状況となりました。しかし、残念ながら補修後の再劣化が後を絶たないのが現状です。コンクリート補修の難しさを痛感いたします。
 我々は考えました。『塩害に効く』とはいったい何を指しているのか?『ASRを抑制する』とはいったいどのような状況を指しているのか?それらを明確にしなければまた再劣化を繰り返してしまうはずだと。その結果、劣化機構に応じて補修工法を選定するだけでなく、それを定量的な観点に立って設計しなければならないとの結論に達しました。
 定量的な補修工法選定とは何か。我々はこのように考えています。例えば塩害の場合。塩害の補修といっても、その目的は「塩化物イオンを侵入させない」「水、酸素を侵入させない」「鉄筋腐食反応の速度を緩和させる」「鉄筋腐食反応そのものを停止させる」「腐食によって断面減少した鉄筋量を補う」「部材としての耐荷性能を回復させる」など、置かれている劣化過程によって様々です。まずは補修工法にどんな要求性能を設定するかを明確にする必要があります。また、塩害の調査診断では必ず塩化物イオン含有量を測定しますが、せっかく測定したのに「測定値が腐食発生限界塩化物イオン量を超えているため、劣化機構は塩害と判定する」というだけではもったいないでしょう。塩化物イオン濃度の大小は内部の鉄筋腐食速度の大小と関係性があります。さらに、塩化物イオン濃度に対してモル比1.0となる亜硝酸イオンを防錆材として供給すると、以後の鉄筋腐食抑制効果が期待できると既往の研究で明らかになっています。これらの知見を活用すれば、表面含浸工法も単なる劣化因子の遮断のための工法にとどまらず、鉄筋位置での塩化物イオン量に応じて亜硝酸イオン供給量を計算して塗布量を設定することで、鉄筋腐食抑制効果を付加することができます。同様に、断面修復工法でも必要な亜硝酸イオン量を算出してポリマーセメントモルタルに混入する量を設定することができます。さらに、内部圧入工法では鉄筋かぶりが大きい構造物、塩化物イオン濃度が高い構造物、鉄筋腐食が既に顕著な構造物に対しても、亜硝酸イオン量を定量的にかつ早急に鉄筋位置に供給することができます。
 上述した内容は我々が考える定量的な補修の考え方の一部です。また、この定量的な補修工法選定に加え、補修後の維持管理シナリオを時間軸で捉えることも重要です。再劣化しない補修工法を選定することが常に最善だとは言い切れません。費用を投じて根本的な補修を行い、以後の再劣化を許容しないという維持管理シナリオもありますし、まずは必要最小限の補修を行い、その後の再劣化も許容して再劣化と再補修を繰り返しながら供用するという維持管理シナリオが選択されることもあります。このように定量的な工法選定と将来の維持管理シナリオを総合的に評価することで、コンクリート構造物の長寿命化の実現、ひいては持続可能な社会の実現に寄与できると考えています。