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コンクリート構造物の補修・補強に関するフォーラム、コンクリート構造物の補修・補強材料情報
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(1)塩害とは

図2-1 塩害による劣化の例

図2-1 塩害による劣化の例

 塩害は,文字通り“塩"の害であり,鉄筋コンクリート中の鉄筋腐食による劣化現象の一つです.一般に,コンクリート中の細孔はセメントの水和反応による飽和水酸化カルシウム水溶液で満たされています.飽和水酸化カルシウム水溶液のpH値は12~13ですので,コンクリートは強アルカリ性を示します.このような高アルカリ環境の中にある鉄筋表面には酸素が化学吸着し,緻密な酸化物層が生じることによって厚さ3nm程度(1nmは1mの10億分の1)の不動態被膜(γ-Fe2O3・nH2O)が形成されます.その不動態被膜によってコンクリート中の鉄筋は腐食から守られる(不動態化している)といわれています.
 しかし,コンクリート中に許容濃度以上の塩化物イオン(Cl-)が存在する場合,鉄筋表面の不動態被膜が破壊されてしまいます.コンクリート中には十分な量の酸素と水が存在するため,不動態被膜が破壊されると鉄筋は酸化反応を起こし,腐食が開始してしまいます.コンクリート中に塩化物イオンが存在する理由としては,
  ①沿岸部の海水飛沫や冬季間の凍結防止剤散布などによる塩化物の浸透(飛来塩分)
  ②海砂や塩化物含有混和剤の使用など,コンクリート材料に由来する塩化物(内在塩分)
などが考えられますが,いずれの場合においても限界濃度以上の塩化物イオンの存在により不動態皮膜が破壊され,酸素と水によって鉄筋腐食が進行することに変わりはありません.これまで土木学会では腐食発生限界塩化物イオン濃度を1.2kg/m3と定めていましたが,2013年制定の「コンクリート標準示方書[維持管理編]」ではコンクリートの種類に応じた算定式にて求める手法が提案されるとともに,みなし規定として2.0kg/m3という値も提示されてます.

図2-2 鉄筋腐食反応の模式図

図2-2 鉄筋腐食反応の模式図

 不動態被膜が破壊された箇所では鉄筋腐食が生じますが,このコンクリート中の鉄筋腐食は電気化学的反応として図2-2のように表すことができます.
 アノード反応は電子2個を鉄筋母材中に残して鉄がイオンとなって溶出する反応であり,鋼材が腐食することそのものです.このアノード反応によって生じる電子を消費するのがカソード反応です.この2種類の反応が同時に起こるのが鉄筋腐食反応であり,反応の進行に従い水酸化第一鉄,水酸化第二鉄,赤錆が生成されます.
 鉄筋が腐食すると腐食箇所の体積が2.5倍程度に膨張するため,その膨張圧によってコンクリートにひび割れが発生します.そのひび割れを通じて水分,酸素,塩化物イオンなどの劣化因子の供給が容易になることにより,さらに鉄筋腐食が促進され,コンクリートはく離やはく落,鉄筋の断面減少を生じ,構造物の耐久性能,耐荷性能が低下していきます.これが塩害によるコンクリート構造物の劣化メカニズムです.