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2018年09月06日 コンクリート新聞

コンクリート構造物の維持・補修特集

2018年09月06日 コンクリート新聞 | プレスリリース | 一般社団法人コンクリートメンテナンス協会技術向上目指し活動
11年に全国組織発足


 バブル崩壊を経て公共投資の削減や広島市で1994年に開かれたアジア大会後、広島県の建設業者らは明るい未来が見えなかった。一方、高度成長期に施工されたコンクリート構造物の維持、補修は将来展望を描く一つとみられた。そうした中、徳納会長は97年に福徳技研(広島市)などコンクリート補修を専門とする21社が集まって広島県コンクリートメンテナンス協会を設立した。同協会は地方組織として現存するが、JCMAの前進組織として位置づけられている。

原因要因が欠落

 同協会設立時を振り返り徳納会長は「亜硝酸リチウムを用いた補修工法を得意とする協会だった」と話す。しかし、どんな劣化であっても同じ工法を提案し続けたため、再劣化を繰り返した。発注官庁からは半ば愛想を尽かれていたが、亜硝酸リチウムを製造する日産科学の材料に問題はないと判断された。そこで、工法に問題があると考え、劣化・腐食のメカニズム解明を始めた。徳納会長は「それらの解明を行うことで『なぜひび割れが発生したのか』『なぜ鉄筋が腐食したのか』という根本的な原因推定が欠落していることに気づいた」と指摘する。
 その後、塩害や中性化、アルカリシリカ反応(ASR)など劣化に関する知見も蓄積、劣化に応じた補修工法、補修材料が選定されるようになった。しかし、再劣化が後を絶たなかった。
 そこで「塩害に効く」「ASRを抑制する」とはどのような状況を指すのか。それらを明確にしなければ再劣化を繰り返すと考え、劣化機構に応じた補修工法の選定だけでなく、定量的な視点に立って設計しなければならないという結論に達した。さらに、補修後の維持管理シナリオを時間軸で捉えることも重要だ。例えば、費用を投じて再劣化を許容しないというシナリオもあれば、必要最小限の補修を行い、再劣化を許容して劣化と補修を繰り返しながら共用するというシナリオも考えられる。そのシナリオに応じた補修メニューを立てるという視点が必要ということが分かった。

全国組織立ち上げ

 同協会発足後、補修材料検索サイトの開設や大学などとの共同研究、技術フォーラムの開催などを行ってきた。その結果、これらの活動に賛同する人が増え、広島以外からも協会加入の意向が寄せられた。そこで、11年にコンクリートメンテナンス協会を新たに立ち上げた。全国組織として活動するために任意団体ではなく、一般社団法人とした。
 同協会は▽コンクリート構造物の補修・補強に関する技術などの標準化および普及活動▽コンクリート構造物の補修・補強に関するフォーラム、講習会などの開催▽コンクリート構造物の補修・補強に関する技術などの調査、研究および指導▽各官庁、民間などによるコンクリート構造物の調査、設計、施工などへの協力▽コンクリート構造物に関係する学術団体、業界団体等との交流▽技術資料など刊行物の発刊――といった活動を行う。

全国13会場で講習会
発注館長の参加増える


 このうち活動の目玉の一つが「コンクリート構造物の補修・補強に関するフォーラム」である。以前は全国30会場で開いていたが、今年は13会場で開いた。徳納会長は「基本的には国土交通省の地方整備局の本拠地で開催するのがいいと考え、会場も絞られてきた。昨年も13会場で開いたが6100名が集まった」と会場選定の理由を説明する。来年も5~9月にかけて今年と同規模で開く予定である。
 フォーラムは聴講者の参加者を無料にしている。徳納会長は「フォーラムでは講演される方からわずかであるがお金をいただいている。これは聴講者にとっては最新の知見を無料で効くことができ、講演者には多くの方に工法を広めることができる。双方にとってメリットがある仕組みにした」と話す。参加者の職層は1番多いのが設計コンサルタント、2番目は施工者だが、「最近は発注者の参加も増えている」(徳納会長)という。地域差はあるものの1割に満たない参加者だったが、現在は2~3割占めている。徳納会長は「CPD(技術者の継続教育)の単位が出ることもあるが、本当に維持管理の勉強をしないといけないという雰囲気が高まっている」と発注者の意識が変わってきていることを感じている。

現場見学会も好評

 また、現場見学会も高い評価を得ている。最近では広島ガスの海田基地(広島県海田町)5000トンバース補修工事現場を見学した。同バースはASRと塩害の複合劣化で、「目で見て分かるくらい劣化している」(同)という。そこで、ひび割れた注入や断面修復、表面保護、内部圧入など様々な工法で対処している。見学会には1回に30~40人程度が参加し、「のべ人数で300人以上が参加した」(同)と関心が高いことを裏付ける。
 土木業界を志望する高校生や大学生の関心も高まっている。徳納会長は「学生も維持管理工事が増えていることは知っている。建設業の仕事のやり方が変わってくるため、彼らの関心も高まっているのではないか」と分析する。
 技術資料として、『コンクリート構造物の維持管理~塩害・中性化・ASR補修の考え方』などを作成している。同資料はコンクリート構造物の劣化のメカニズムや劣化要因に応じた定量的な補修技術の紹介、関連論文など最新の知見を織り込んでいる。

早期に対策を

 今後の国内の維持補修工事について徳納会長は、8月にイタリア・ジェノバで発生した落橋工事を踏まえ早期にインフラメンテナンスを施さないといけないと警鐘を鳴らす。「劣化が分かっていれば橋が落ちることはない。しかし、今の状況が続くと日本中で落橋事故が発生する可能性もある」(同)。日本は風水害だけでなく、地震も多い。そのため、コンクリート構造物が劣化する要因は海外の構造物に比べても高く、早期に対策を打つ必要がある。
 徳納会長は発注者と設計コンサルタントが知識をつけないと維持・補修工事の概念が広まらないと見通す。「広島の場合だが、発注者を対象とした勉強会を開いても国交省やNEXCOの方の関心は高く、知識レベルも年々上がっていると感じる。しかし、市町村など自治体の方々はやや参加者も少なく、維持補修の概念が十分に広まっていない」(同)。これから補修工事の発注が増えるため、発注者も劣化のメカニズムや打音検査以外の検査方法などを理解する必要があるという。また、設計コンサルタントも劣化の原因やメカニズムを理解しないと正確な工事の提案ができない。
 徳納会長は「おこがましいかもしれないが、設計コンサルタントにしっかり勉強してもらわないと維持補修ビジネスがなくなってしまう」と危機感を強めており、JCMA活動への参加を今後も呼び掛けていく。

適切な維持管理を支援
長寿命化に向け研究


 コンクリート構造物の大半が戦後に施工され、その数量は100億平方メートルともいわれ、今後一斉にコンクリート構造物の劣化が進行することが予想されている。そこで近未来コンクリート研究会ではインフラを適切に維持管理することを支援し、これから建設されるコンクリート構造物の長寿命化に向けた研究を行っている。
 今年の総会で研究分野を3つに絞り活動する方針が示されているが、その一つに「延命化のための維持管理技術協議会」(M協議会)がある。十河会長は維持管理技術を研究分野に選んだ理由について「高耐久性として設計された橋梁などのコンクリート構造物が環境条件によっては主要な鉄筋の腐食が進行しつつあると考えられ、延命化策は喫緊の課題である」と指摘している。一方、インフラ延命化のための予算と人材が不足しており、専門家の育成と本格的な予防保全が必要であるとし、これらの施策を提案することが活動目的としている。同協議会の代表には江良和徳氏が主査についた。
 コンクリート構造物の劣化因子には塩化物イオンやアルカリシリカ反応(ASR)、中性化、科学的腐食など多岐にわたり、複合的に作用する場合も少なくない。道路橋は5年に一度の検査が義務化され、近接目視や打音による検査も行われている。しかし、損傷が表面化した段階では鉄筋の腐食は進行していると考えるべきで、予防保全としての点検方法、腐食が進行しつつある構造物への対処方法など技術進化が求められている。
 M協議会では他の協議会と同様に年4回程度会合を開き、来年4月の総会で活動報告を行う計画である。すでに7月の劣化の実態、メカニズムと要因の概説について意見交換した。具体的にはコンクリート床版の補修事例や広島でのコンクリート剥落事例、予防保全のあり方、各地の塩害事例、点検・補修設計、メンテナンスエキスパート制度、道路管理システムなど様々な事例で議論した。今後は9月、12月、3月に会合を開く予定だ。

点検要領作成を

 十河代表は「延命化に対する概念は今まで土木の業界であまり取り組んでこなかった」と予防保全のための点検要領を作る必要があると指摘する。「例えば、近接目視の点検では打音検査などを行っているが、これは第三者被害を防止する効果はあっても、現状で健全な構造物の劣化を予測することはできない」と述べ、正しい点検方法を確立する必要があるとしている。また、延命化のカギは予防保全にあるとし、劣化の早期発見と予防保全を計画的に進めることで経済的にコンクリート構造物の長寿命化を図ることができるとしている。