コンクリート構造物の補修・補強に関するフォーラム、コンクリート構造物の補修・補強材料情報
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構造物の外観変状調査の結果,ひび割れや白色ゲル析出などASRによる劣化が疑われた場合,コア採取による詳細調査を実施して劣化要因がASRであるかどうかを判定します.ASRに関する試験方法としては,膨張量試験,岩種判定,アルカリ含有量分析,アルカリシリカゲルの確認などが挙げられます.|コンクリート構造物の補修・補強に関するフォーラム、コンクリート構造物の補修・補強材料情報|JCMA・一般社団法人コンクリートメンテナンス協会
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(1)亜硝酸リチウムを用いたASR対策の基本的な考え方

 構造物の外観変状調査の結果,ひび割れや白色ゲル析出などASRによる劣化が疑われた場合,コア採取による詳細調査を実施して劣化要因がASRであるかどうかを判定します.ASRに関する試験方法としては,膨張量試験,岩種判定,アルカリ含有量分析,アルカリシリカゲルの確認などが挙げられます.
 劣化要因がASRであると判定されると,次にASR対策工法の選定を行います.ASR対策工法を適切に選定するためには,以下のような着目点について考慮しておくことが重要です.

ASRの膨張性

・残存膨張量試験により,今後も有害な膨張が進行するか否かを推定する
・過去の定期的なひび割れ調査結果などから,ASRの進行性や進行速度を推定する

構造物の立地・環境条件等

・水分遮断によるASR抑制効果が期待できる環境か否か?
・構造物へのアプローチは容易か否か?

構造物の予定供用年数

・予定供用年数は?

 ASRによるコンクリートの膨張性は非常に大きく,その膨張も長期間継続することが知られています.その結果,ASR補修を施工しても短期間のうちに再劣化を引き起こしている構造物も少なくありません.従って,ASRで劣化した構造物の対策工法を選定するにあたり,将来的なASR膨張性,進行性を把握し,今後も有害な膨張が進行するか否かを適切に評価することは極めて重要です.ASRの膨張性を評価する方法として,コア採取による残存膨張量試験が挙げられます.残存膨張量試験には,「JCI-DD2法」,「カナダ法」,「デンマーク法」などがあり,それぞれ促進条件や試験期間,判定基準などが異なります.いずれの試験方法を用いた場合でも,それぞれの判定基準を超える膨張量を示した場合には,今後も有害な膨張が進行することを前提として対策工法を選定することが重要となります.
 ここで,いずれの試験方法においても当該構造物の将来的なASR膨張進行の可能性を定量的に示すことができるのですが,反応性骨材の種類によっては,ある試験方法では膨張性を適切に評価できずに「無害」と誤診する可能性があることも指摘されています.例えば,JCI-DD2法における判定基準値のひとつとして,13週間の促進環境下における膨張量が0.05%以上を示したものを有害と判定する基準値がありますが,遅延膨張性を示す骨材などでは実際には有害な膨張性を秘めているにもかかわらず,試験結果では0.05%を下回るということもあります.残存膨張量試験の結果はあくまである一定の促進環境下における膨張量を示すものであり,以後のASR膨張の可能性を示すひとつの目安程度と捉える姿勢も必要となります.過去の定期的な調査結果から,ひび割れ幅や延長の進展がみられる場合には,残存膨張量試験によらずASRの進行性が大きいと判断することもできます.
 ASR対策工法を選定する場合,今後も有害な膨張が進行するか否かによって選択される工法が異なってきます.ASRの膨張性が大きい場合と小さい場合に分けて,先述した 銑の着目点を考慮したASR対策工法選定の考え方について以下に示します.

ASR膨張性が十分に小さい場合

 ASR膨張性が十分に小さいと判断される状況には,「もともとASR膨張性がそれほど大きくない」場合と,「既に甚大な膨張を生じたあと収束した」場合とがあります.両者は劣化の程度が大きく異なりますが,対策の考え方は共通した部分があります.
  ●ゲルの膨張性が小さいため,今後の有害な膨張の進行を想定しなくてもよい.
  ●ということは,今発生している変状さえ対処すればよい.
  ●対策後に多少の水分が供給されても再劣化のリスクは低い.
 まず,もともとASR膨張性がそれほど大きくなかったケースを考えます.反応性骨材の種類や混合比率(ペシマム)などの条件によってはこのようなケースもあります.ゲルの膨張性が小さいとはいえ,ASRで既に劣化している構造物ですので,将来的な膨張進行がゼロというわけではありません.最低限の水分遮断は図るべきです.換言すると,この段階では補修工法の主たる要求性能を「劣化因子の遮断」とすることができるということです.「劣化因子の遮断」を目的とした工法に表面含浸工法,表面被覆工法,ひび割れ注入工法が挙げられますが,ここに亜硝酸リチウムを併用すれば「劣化因子の遮断」に加えて「ゲルの非膨張化」もコンクリート表層部程度には期待できます.ASR膨張性が小さいコンクリートですので,亜硝酸リチウムの活用方法もこの程度の軽微なもので済みます.また,ASRひび割れの箇所と鉄筋が交差している場合にはひび割れを通じて劣化因子が侵入し,局部的な鉄筋腐食を引き起こす原因ともなりますので,鉄筋腐食抑制を目的として補修材料に亜硝酸リチウムを使用するという意味もあります.
 次に,既に甚大な膨張を生じたあと収束している場合を考えます.ASR膨張が収束するのは,一般的にASRの劣化過程が「劣化期」となった段階であるため,コンクリート表面には無数のひび割れなどの変状が現れています.これらを一つずつひび割れ注入することもありますが,表面全体をはつり取って断面修復してしまう方が経済的となる場合もあります.もちろん将来的に膨張が進行しないことが適用条件となります.ここでひとつ注意が必要なのは,劣化期にまで進行しているということは,コンクリート強度や弾性係数の低下,鉄筋破断なども生じている可能性が高く,耐久性のみならず耐荷性にも著しい低下が想定されるということです.ASR膨張性が小さい場合の対策工法選定の考え方は,以後の膨張を考慮しなくてよいために確かにシンプルなのですが,変状の状況によっては補修対策だけでなく,補強工法も併せて検討することも必要になることがあります.
 これらを踏まえて,ASRの進行性が小さいと判断される場合に適用可能な対策工法を表3-3に示します.

表3-3 ASRの膨張性が十分に小さい場合の対策工法
適用できる対策工概要
表面含浸工法・コンクリート表面に亜硝酸リチウムを塗布した後,表面含浸材を塗布・含浸させる.
・塗布した亜硝酸リチウムがコンクリート内部へ浸透し,コンクリート表層部のASRゲルの膨張を低減する.また,表面含浸材が外部からの水分侵入を遮断するとともに,亜硝酸リチウムの溶出を防ぐ.
表面被覆工法・コンクリート表面に亜硝酸リチウムを塗布した後,亜硝酸リチウムを含有した表面被覆材にてコーティングする.
・塗布した亜硝酸リチウムおよび被覆材に含まれるリチウムイオンがコンクリート内部へ浸透し,コンクリート表層部のASRゲルの膨張を低減する.また,表面被覆材が外部からの水分侵入を遮断する.
ひび割れ注入工法・ひび割れに亜硝酸リチウムを先行注入した後,無機系注入材を本注入してひび割れを閉塞する.
・先行注入した亜硝酸リチウムがひび割れ周辺のコンクリートへ浸透し,ASRゲルの膨張を低減するとともに,腐食した鉄筋に到達し,以後の腐食を抑制する.本注入した無機系ひび割れ注入材がひび割れを閉塞し,ひび割れを通じた水分侵入を遮断する.
断面修復工法・劣化しているコンクリート表面をはつり取り,コンクリートやポリマーセメントモルタルにて修復する.
・コンクリート表面の変状が著しいものの,膨張が既に収束している場合に適用されることがある.

ASR膨張性が大きい場合

 ASR膨張性が大きいと判断される場合(今後も有害な膨張が見込まれる場合)には,工法選定を慎重に行う必要があります.このケースの特徴は,以下の通りです.
  ●今後も進行する有害な膨張に対応可能な工法を選定する必要がある.
  ●従来のひび割れ注入工法や表面被覆工法のような対処療法的な補修工法では早期に再劣化することを認識しておく必要がある.
 ASR膨張の継続期間は骨材の種類や配合比率(ペシマム)などに大きく影響を受けるため一律に論じることができませんが,少なくとも数十年単位で膨張が進行するといわれており,ASR膨張は長期間に及ぶことが知られています.ASR膨張の継続期間を精度よく予測することは困難であり,残存膨張量試験を実施してもその膨張量と実際の膨張期間とを関連付けることは容易ではありませんが,試験等によりASR膨張性が大きいと判定された場合には将来的に有害な膨張が進行することを想定した工法選定を行うことが重要です.将来的に有害なASR膨張が進行することを想定した維持管理シナリオとは,『再劣化を許容して定期的に再補修を行う』というケース,『再劣化を許容せず根本的な対策を講じる』というケースが考えられます.どちらの維持管理シナリオを選択するかは対象構造物の置かれている環境条件,構造特性,重要度などを総合的に判断する必要があります.
 『再劣化を許容して定期的に再補修を行う』場合における補修工法の主たる要求性能は「劣化因子の遮断」となります.「劣化因子の遮断」を目的とした工法に表面含浸工法,表面被覆工法,ひび割れ注入工法が挙げられますが,ここに亜硝酸リチウムを併用すれば「劣化因子の遮断」に加えて「ゲルの非膨張化」もコンクリート表層部程度には期待できます.ただし,ASR膨張性が大きいコンクリートですので,亜硝酸リチウムの供給範囲が表層部のみとなるこれらの工法では根本的なASR膨張抑制までは期待できません.求める効果はあくまで水分遮断であり,プラスアルファとして部分的にゲルの膨張抑制効果が付加される程度と認識すべきです.そして補修後の劣化進行を経過観察し,再劣化が顕在化した段階で再び補修を繰り返すことになります.
『再劣化を許容せず根本的な対策を講じる』場合における補修工法の主たる要求性能は「ゲルの非膨張化」となります.「ゲルの非膨張化」を目的とした工法に内部圧入工法が挙げられます.内部圧入工法は亜硝酸リチウムをコンクリート部材全体に供給する工法ですので,コンクリート全体のASR膨張抑制効果が期待できる最も信頼性の高い工法といえます.
これらを踏まえて,ASR膨張性が大きいと判断される場合に適用可能な対策工法を表3-4に示します.

表3-4 ASRの膨張性が大きい場合の対策工法
適用できる対策工概要
内部圧入工法・コンクリートに削孔し,亜硝酸リチウムを内部圧入することでコンクリート全体にリチウムを供給する.コンクリート全体のゲルが非膨張化されるため,以後のASR膨張は根本的に抑制される.
・対策後はたとえ水分の供給があってもASR膨張が進行しないので,再劣化を許容しない構造物の補修工法として適用性が高い.
・初期コストは高価であるが,予定供用年数が長い場合はLCCで有利になる場合が多い.
表面含浸工法・コンクリート表面に亜硝酸リチウムを塗布した後,表面含浸材を塗布・含浸させる.
・塗布した亜硝酸リチウムがコンクリート内部へ浸透し,コンクリート表層部のASRゲルの膨張を低減する.また,表面含浸材が外部からの水分侵入を遮断するとともに,亜硝酸リチウムの溶出を防ぐ.
・ただしASR膨張抑制効果は限定的であり,再補修を前提とした維持管理シナリオの下で適用される.
表面被覆工法・コンクリート表面に亜硝酸リチウムを塗布した後,亜硝酸リチウムを含有した表面被覆材にてコーティングする.
・塗布した亜硝酸リチウムおよび被覆材に含まれるリチウムイオンがコンクリート内部へ浸透し,コンクリート表層部のASRゲルの膨張を低減する.また,表面被覆材が外部からの水分侵入を遮断する.
・ただしASR膨張抑制効果は限定的であり,再補修を前提とした維持管理シナリオの下で適用される.
ひび割れ注入工法・無機系注入材と亜硝酸リチウムを併用してひび割れを閉塞する.
・先行注入した亜硝酸リチウムがひび割れ周辺のコンクリートへ浸透し,ASRゲルの膨張を低減するとともに,腐食した鉄筋に到達し,以後の腐食を抑制する.本注入した無機系ひび割れ注入材がひび割れを閉塞し,ひび割れを通じた水分侵入を遮断する.
・ただしASR膨張抑制効果は限定的であり,再補修を前提とした維持管理シナリオの下で表面含浸または表面被覆工法と併用して適用される.
 表3-4に示したとおり,亜硝酸リチウムによるASR抑制効果の期待度は内部圧入工法が最も高いため,ASR膨張性が大きい場合の対策工法としては内部圧入工が最も適しているといえます.しかし,再劣化を許容する場合やASR膨張性が比較的穏やかな場合では,ひび割れ注入工法と表面保護工法(表面含浸または表面被覆)に亜硝酸リチウムを併用することにより,部分的にゲルを非膨張化できるため,従来のひび割れ注入や表面被覆による一般的なASR補修工法よりも延命化を図ることができます.内部圧入工法とひび割れ注入工法・表面保護工法における亜硝酸リチウムの浸透範囲のイメージをそれぞれ図3-19,図3-20に示します.
図3-19 内部圧入工法の場合
図3-19 内部圧入工法の場合
図3-20 ひび割れ注入・表面保護工法の場合
図3-20 ひび割れ注入・表面保護工法の場合
 ASR膨張性が大きい場合に適用される「内部圧入工法」と「ひび割れ注入工法・表面保護工法」について,その適用区分に関する基本的な考え方について以下に示します.

【構造物の環境条件による適用区分】
 ASR劣化の進行は,その構造物が置かれている環境条件,特に水分供給条件の大小によって大きく異なることがあります.例えば,ASR膨張性が大きく,かつ著しい水分供給がある環境の構造物では,以後のASR劣化の進行速度が速いため,ひび割れ注入工法や表面保護工などでは十分なASR補修効果が得られず,再劣化を引き起こす可能性が非常に高いといえます.このような場合では,内部圧入工法によりコンクリート全体のゲルを非膨張化し,根本的なASR抑制を図ることが効果的といえます.
 一方,ASR膨張性は大きいものの,水分供給が比較的穏やかな環境の構造物では,以後のASR劣化の進行速度も緩やかな場合があります.このような場合では,ひび割れ注入工法および表面保護工法に亜硝酸リチウムを併用し,水分浸入の遮断効果に加えて部分的にゲルの非膨張化を図ることでも構造物を延命化することができます.これは,仮に将来的に再補修が必要になるとしても,再劣化までの期間を延長することが可能になるということです.
 また,同一構造物においても,部位によってはASR劣化の進行速度が異なる場合があります.例えば上部工がかけ違いの橋脚では,はり部には雨が直接降りかかるとともに上部工の伸縮装置から橋面の水が流れ込むため,ASR劣化が顕著となることが多いといえます.それに比べて柱部は水分供給環境がはり部ほど厳しくないことが多いため,ASR劣化の程度が穏やかとなる場合があります.このような場合,ASR劣化速度が速く,今後も膨張が進展しそうな部位のみに内部圧入工法にて根本的な対策を講じ,それ以外は表面保護工法にて水分供給を遮断して経過観察する,という対策工法の組み合わせも考えられます.

【構造物の立地条件による適用区分】
 構造物の立地条件によっては,補修工事のしやすさが大きく異なります.例えば,ASR膨張性が大きい構造物で,かつ足場設置が困難な狭隘な場所,住宅密集地,鉄道等に近接した場所など,構造物へのアプローチが困難な立地条件にある場合では,定期的な再補修どころか,詳細調査すら十分に行えないと考えられるため,内部圧入工により根本的にASR抑制を図り,再劣化のリスクを低減しておくことが効率的といえます.
 一方,ASR膨張性は大きいものの,施工個所へのアプローチが容易で定期的な再補修計画を採れる場合には,ひび割れ注入工法および表面保護工法に亜硝酸リチウムを併用し,水分浸入の遮断効果に加えて部分的にゲルの非膨張化を図ることでASRの進行を遅らせつつ,定期的な再補修計画を立案することもできます.

【構造物の予定供用年数による適用区分】
 ASR劣化した構造物の予定供用年数によっても選定される対策工法は異なってきます.例えば,ASR膨張性が大きくても,今後10年間程度しか供用する予定がない構造物に対して内部圧入工法を適用するのは費用対効果の観点から推奨できません.このような場合には,ひび割れ注入工法および表面保護工法に亜硝酸リチウムを併用することで,予定供用年数は十分に延命化することができると考えられます.
 一方,ASR膨張性が大きく,今後の予定供用年数も十分に長い場合には,内部圧入工法により根本的にASR抑制を図り,再劣化のリスクを低減しておくほうがLCC(ライフサイクルコスト)の観点からも有利になると考えられます.


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