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2013年01月01日 中建日報

座談会 中国地方のコンクリート構造物補修技術の課題と展望

2013.1.1 中建日報 座談会 中国地方のコンクリート構造物補修技術の課題と展望 | プレスリリース | 一般社団法人コンクリートメンテナンス協会
中国地方のコンクリート構造物、特に橋梁は「10年後には半数が築50年以上の老朽橋となる」とされており、これらを適切に維持管理し、延命させることは道路管理者やコンクリート技術者にとって極めて重要かつ喫緊の課題となっている。また、一昨年の東日本大震災に加え、昨年末に発生した中央自動車道笹子トンネルの天井板落下事故は、我々に構造物維持管理の重要性をいっそう強く印象づけるものとなった。そこで、本紙では新春企画として「中国地方のコンクリート構造物補修技術の課題と展望」をテーマに座談会を開催。産学官から4人のエキスパートを招き、補修技術の現状や課題、新技術への期待などについて大いに語ってもらった。
(総合司会は本紙・絹井正博社長)

絹井―本日はお忙しい中、新春座談会にご出席下さり、ありがとうございます。本紙では昨年、「中国地方のコンクリート構造物維持管理の現状と課題」の特集記事を掲載し、大きな反響をいただきましたが、今回は第2弾ということで、昨年の内容を加味しつつ、新たなテーマでそれぞれのお立場からお話をいただきたいと思います。限られた時間ではございますが、どうか忌憚のないご意見をお願いします。
 
鈴木―それではまず、コンクリート構造物保全計画の現状分析ということで、社会インフラ施設の象徴的存在である橋梁保全の現状を見ることから始めます。自治体を含めて全国展開されている橋梁長寿命化修繕計画の中国地方における現状について、川端さんにご説明いただきます。

川端―長寿命化修繕計画の策定作業は、平成18年からスタートしたが、中国地方では平成24年4月時点で全ての県、政令市で策定しており7割弱の市町村でも策定されている。ただ、実際に修繕を実施しているのは県や政令市でも約20%、市町村では3%程度に過ぎず、予算を確保するため計画は策定したものの、どう財源を確保していけばいいのか悩んでいるのが実情のようだ。一方で自治体管理の15m以上の橋梁のうち約70橋が通行止め・通行規制を行っており今後も確実に増えていく。昨年8月に国交省が実施したアンケートでも職員不足や社会資本基盤整備総合交付金等による財政的支援や講習会・研修会による技術的な支援を求める声が多く寄せられている。現状の財政状況から見ると補修・補強の技術においてもコスト・性能ともに向上した新たな技術開発や長寿命化に資する仕組みを考えていかなくてはならない。

鈴木―実際工事に入る段階での予算・財政の裏づけに加え、技術的革新によるコスト・性能の向上は確かに重要です。この点について、現場で長年ご指導をされている十河さんにご意見を伺います。

十河―老朽化した構造物はかなり増えてきており、ある程度は想定の範囲内であったものの、財源不足や専門家の不在などで確かに補修が追いついていない。ただ、点検の実施が次第に進められてきたのは非常に良いこと。その中でコンクリート診断士やコンクリート構造診断士などの専門家などを活用し、しっかりとした診断や補修方法の提案を行うことは第一に必要なことで、それが効率的な財源の利用にも繋がる。技術革新については規模の大きな現場と小さな現場では有効な技術も違うし、具体的な事象が出てくれば民間の競争により活発な技術開発が行われる。技術はまさに日進月歩であるので、大いに期待しているところだ。

鈴木―効率的な補修と費用縮減のため、診断技術が重要というお話は私も同感です。それでは、少し切り口を変え、実際に補修の現場で活躍されている江良さんに事例等を踏まえた経験談を伺います。
 
江良―私は構造物の新設と維持管理の両方に携わる機会があるのだが、両者を比較すると補修・補強工事の方が難易度が高い面があると感じる。補修の場合、仮に同じ劣化要因であってもその時点での劣化程度に加えて構造物の置かれている環境、使用状況、建設年次、使用材料などによって適用すべき工法や材料が異なる。また、供用中の構造物に手を加えるため時間的・空間的な制約や通行規制なども絡んでくる。また、調査や補修設計段階で100%の調査は難しく、ひび割れ補修1つとっても施工段階で実際に現地に入ると調査段階の2倍3倍のひび割れ数量だったということはザラにある。遠方監視と近接目視の差、調査時の足場設置の有無、高圧洗浄の有無などで当然発生する差異であると思う。まさにその構造物特有の対策を現地合わせで要求されるということだ。そして、施工箇所の点在や小規模な施工単位などの要因が作業効率を下げたり諸経費を増加させたりして、発注段階の積算と実際の施工内容が乖離してしまい、適正な利益を得られにくいことがある。施工者の立場にある方は強く感じられていることだと思う。

鈴木―補修工事に入っての設計数量の増加、設計者としてはよく聞く話で耳が痛いですね。挙げられたように多くの原因がありますが、私はどういう補修をするかという想定が設計者に足りない場合もあると感じています。あるトラブルの事例を紹介すると、乾燥収縮による細かいひび割れがたくさん入っている現場で、設計を担当した若い技術者は補修が必要とされる目安のひび割れ幅0・2mm以上のものにのみ注入工法で補修するよう設計・数量算出を行いましたが、施工者から連続してつながった0・2mm未満の細かいひび割れにも注入剤が入るので補修数量の大幅増を見てほしいとクレームが来てしまいました。補修後にも残る細かいひび割れに対しても理由を見つけて表面含浸処理を入れれば良かったのですが、それをしなかったために施工者側から中途半端な補修は理解できないと言われてしまった形です。

十河―ひび割れ1つとっても、劣化によるひび割れと施工時にひび割れが入ってその後劣化するのとでは全く話が違うし、初期ひび割れは幅が変動する。その意味では0・2mmという数字が本来の目的にかなうものかどうか考える必要があると思う。また、江良さんが話された積算との乖離は非常に難しい問題で、人間の治療でも終わってみないと費用が確定しないのと同じように、橋1本幾らと言える分野ではない。発注側が相当の技術を持ち、現場に立って査定するなど色々な方法があるはず。「補修工事は儲からない」となると技術開発も進まなくなってしまうので、これまでと違った補修・発注の方式は考えていってほしい。

鈴木―0・2mmという許容ひび割れの考え方も先行しすぎている印象は受けますね。コンクリート工学会から出されている2009年版「コンクリートひび割れ調査、補修・補強指針」では、従来の許容ひび割れ幅の考え方を進化させ、要求される耐久性の観点からは部材性能への影響を考えて許容ひび割れ幅を変えてよいとなっています。これによれば、耐久性の観点からは、一般屋外環境下では0.3mm、土中・屋内環境下では0.4mmまで許容されるケースが出てきます。また、防水性を考えたときは、0.1mmのひび割れでも許容されないケースもあります。許容ひび割れに関しては、もっと啓蒙して行くことが必要と思います。

川端―構造物の建設は一品生産でありその補修となるとさらに多岐に渡る技術的判断が必要。私も立場上、自治体管理橋梁の点検や診断の支援に行く機会は多いが、架橋の環境や橋のグレードなど様々な要素により、要求性能レベルをどこに置くか、それぞれの橋で相違している。補修補強技術は奥が深いと実感している。
 
江良―同じ条件は二度とないと言っても過言ではない。

十河―先ほどの財源の話にも関連してくるが、橋梁の重要度や災害時の影響なども考えながら補修の優先順位をつけ、補修の程度を考えることも必要だ。早期に補修した方が安い場合もあれば、条件が悪く架け替えてしまった方が良い場合もある。今の点検をもう少し進め、将来的な予算のことまで考えて分析ができるようになれば良い。

鈴木―我々設計者も常にベストの提案を心がけていますが、昨日まで良かった工法が今日も良いとは限らないというのが悩みです。要求性能に対応して提案内容を変えていくためにも補修の担当者は構造設計の勉強だけでなく、施工性や耐久性など材料面からの勉強にもっと力を入れてほしい状況です。

十河―それは建設業全体にも言えることだ。長きに渡って確立された建設業のシステムの中でゼネコンはマネジメントだけを行うようになり、仕事の大部分をそれぞれの専門業者に任せるようになった。施工管理者も専門のことは分からないので任せきりになってしまい、スキマが生まれてしまう。鈴木さんが挙げたひび割れの問題もこのことがかなりの要因を占めているのではないか。解決するには皆が協力し、勉強するしかない。設計者も現場で材料を触り、材料の人も設計を理解する。多能工とはいかないまでも、広範なことを勉強することが必要になってきている。

鈴木―補修は設計から施工まで全体を見渡していく必要があり、多能工の役割は求められていると思います。施工者としてはこの点について何かありますか。
 
江良―新材料・新工法が次々と出てくること自体は選択肢が広がるという意味で望ましいことだが、工法を選定する際の判断の基準が追いついていないことがネックになっている。そこをうまく補うために補修材料の要求性能、施工性や仕上がり、何がその橋に適しているかを総合的に判断する目を養う必要がある。十河さんの言われるように、皆で勉強する機会を確保することが重要となってくる。

川端―再劣化についても少し触れたい。1980年代の初頭頃、塩害やASRが社会問題化し当時すぐに有害物の浸入を阻止しなくてはということで、塗装系の表面保護工で処理した現場がかなりあった。その後、表面上は綺麗になったことで「見ない」「見過ごし」「先送り」をしてしまい、ある時橋の下を覗くと大変なことになっていたケースが幾つか見られる。コンクリートの内部に有害因子が閉じ込められたことで中から蝕まれ再劣化を招いた。再劣化が怖いのは、補修した段階の性能レベルよりもはるかに悪くなってしまうという点でありPCケーブルが破断しても気付かない最悪のケースもあり得る。よく認識しておかなくてはならない。

十河―過去に間違った補修を行って再劣化したものは早急に対応しなくてはならない。ただ、ASRは水を止めれば反応が止まる訳ではないし、塗装することで一定の延命効果があった事例もあるため、一概には言えない。それよりも補修を行ったことで直った。もう何も起きないと思ってしまうことがむしろ怖い。補修は一時的なもので、今後も劣化は起こりうると予測することが重要だ。正直なところ過去には細かいことを考えず、とりあえず劣化している箇所を綺麗にという考え方があったことは否めない。

鈴木―私もある海岸線のRC桁橋で、過去に塩害で断面修復補修されたものの再劣化で鉄筋に沿ったひび割れが入り、再度断面修復補修を始めたばかりの現場に呼ばれたことがあります。このRC桁は、はつってみるとひどい鉄筋腐食で、以前は鉄筋があったところがもぬけの殻で、指の入る孔だけが開いているといった箇所も見られました。以前の断面修復補修では修復材の充填が十分ではなく、腐食の膨張圧が素直にコンクリート表面に出てこず、そのため損傷を軽く見ていたために慌てて補修方針を見直したという例です。

十河―劣化が見えるように透明性の材料で補修する技術や、繊維シートの補強でも格子状に貼って間が見える技術も出てきている。再劣化を防ぐため、以後の維持管理を考えた補修を心掛けることも必要だ。
 
鈴木―次に、最近補修関係でわかってきた注目される損傷、増えてきている事例について話題を移します。まず、個人的にはPCのシース内のグラウト充填が十分でなく、それが影響してか表面にシースに沿ったひび割れが入り、場合によっては腐食が始まっているような事例が目に付くのですが。

江良―グラウト充填不良の問題はよく相談をいただくし、実際に現場で体験することも増えている。当時のグラウト充填技術の問題もあるが、特に上縁定着構造が採用されていた年代のPC橋で顕在化することが多い。すなわち、当時は橋面防水もきちんと施されておらず、凍結防止剤由来の塩分を含む橋面の水分が直接PC鋼材に流れ込み、大変な状況になっていることが多い。最近では材料の改善及び最充填の技術も進んできているが、この問題は今後もしばらく対処が求められるだろう。

十河―グラウトは細い隙間に入るため、流動性が悪いと途中で詰まって空隙ができてしまう。最近は良い材料が出てきて、高流動かつ高粘性でノンブリーディングのため、劣化因子が入りにくい環境がつくられる。以前はかなり苦労していたようで、空隙があるものもかなりある。阪神大震災で壊れたものの中にもそのようなものが散見された。ただ、要点検事項であることは確かだが、あまり恐怖感を持たなくても良い。危険な状態になれば鈴木さんがおっしゃったようにケーブルに沿ってひびが入るなどの症状が現れるので、察知しながら手当てをすれば良い。なるべく早めに予見することが重要だ。

鈴木―確かにあまり過敏になりすぎるのは良くありませんね。シースに沿ったひび割れなどクセの悪いものは集中的に見るべきですが、PC桁の場合でも初期からの乾燥収縮が原因のひび割れなどは、継続点検・観察で当面は様子を見ることで良い場面もあると思います。そのほか注目する事例はありますか。

江良―ある業者がPC橋の架け替え工事を行う際に発生した事例だが、PC桁を分割して撤去するためにコア削孔で細分化しようとしたところ、床版の横締めをまったく考慮せずにPC鋼棒を切断してしまったということがあった。場合によっては鋼棒が突出し、第3者被害が十分に想定される重大な過失であった。施工対象の構造特性に関する知識が欠落しているために起こったことで、教訓として適正な施工業者の選定や施工技術の底上げに繋げていただきたいと思う。
 
十河―建築補修についても昔は配管やダクト、鉄筋などを平気で抜いていた時代もあったと聞く。構造を理解した人が補修しなくては危険というのは重要な指摘だ。

鈴木―我々専門家でもPCの桁に穴を開けるのはすごく抵抗があります。PCケーブルを切っては大変ですので、開ける前に鉄筋探査をやっていても怖い。

十河―最近はドリルでコンクリートに穴を開けながら、異物に当たって負荷がかかれば止まるような技術もあるようだ。建築工事等で配線などを切らないように生まれた技術で、補修工事から新たな技術が出てきた事例と言える。

鈴木―また、有難いことでこれまでは平面的であった鉄筋探査技術に3次元のものも出てきました。手前の鉄筋を避けて奥のシースを狙えるため、まだまだ課題はあるものの、調査する立場としては大変有難い技術です。床版の劣化事例も気になります。舗装を剥いでみたら床版上側の鉄筋が錆びているケースで、おそらく凍結防止剤が染みて鉄筋が錆び、錆びたことによる膨張圧でかぶりが割れ、それが輪荷重で砕ける。従来の疲労損傷による抜け落ちとは違うパターンで、超硬速コンクリートで断面修復補修されることが多いが、同じ箇所が痛み、繰返し補修しなくてはならない事例が見られます。

江良―上面増厚を施工した後、その新旧境界面の不具合によって再劣化する事例は非常に増えていると思う。純粋な床版疲労の問題に加えて、材料や施工方法の問題も絡んでおり、対応が容易でないと感じている。
 
十河―単純な疲労や塩害、ASRだけでなく、複合劣化の方向に来ているのだろう。床版の疲労に凍結防止剤の塩害が加わり、コンクリートや鉄筋がある程度腐食した状態でさらに疲労が加わる。ASRも塩害と複合して被害が大きくなるケースが多い。いまの話ではさらに凍害も加わっていると推測される。凍害は内部組織が弱くなり強度が落ちるだけでなく、スケーリングといって表面がボロボロと削られる。最近では損傷自体も複雑な判断をしなくてはいけない事態となっており、まだまだ数が少ないコンクリート診断士にはそのあたりの対応も期待したい。

鈴木―広島県コンクリート診断士会の副会長としてもその点は認識しています。ただ、床版複合劣化の補修については今のところ決定打がない。今後の技術開発に期待したいところです。

十河―調査まではできるが診断は難しく、補修のアイデアは出るがそれが効果的なのかの判断も難しいのが辛いところ。ただ、これは追随して材料・工法を検証しながら新しい材料を開発していくしかない。そのあたりの情報はほとんどの方がお持ちでないと思う。情報の共有化も必要だろう。

川端―床版に関しては昭和31年から43年改訂までの床版厚が薄く配力筋が少ない構造や高度成長期に大量生産された橋で、材料品質が劣るものや、加水など違法な施工方法などでつくられたものが少なからず見られる。それらの構造物を事後保全的な補修補強で維持しており、例えればお年寄りに筋肉補強のスーツを着せているようなもの。今後どこまで要求性能を維持できるのか懸念を抱いている。

十河―コンクリートという材料は変動するし、環境や施工にも左右されるので過去のものが全て良いとも悪いとも言えない。設計どおりに出来ていることを想定するのではなく、今ある構造物がどのような状態であるか、適正に判断する必要がある。
 
鈴木―それでは、現状課題のまとめと今後の展望の話に移ります。損傷以外でも新しい動きがありまして、日本建築学会のコンクリート工事標準仕様書の2009年度版では200年耐用の超長期コンクリートという基準が示されています。建築物の200年住宅構想に関連してのものと思われますが、200年耐用の場合水・セメント比45%以下、100年耐用では50%以下、標準・65年耐用は55%以下、短期・30年耐用では65%以下とされており、水・セメント比でコンクリートを管理する考え方も取り入れられています。道路関係ではどうでしょうか。

川端―総合評価方式の技術提案等で耐久性の向上について求めているほか、高強度で高耐久なコンクリートについて広島南道路のコンクリート床版などで試験施工しているところ。現在の共通仕様書を大幅に変更することは難しいが、コンクリート構造物の耐久性の向上は重要と考えている。

鈴木―先般、鳥取の現場であった話ですが、コンクリート耐震補強の巻立てで乾燥収縮によるひび割れが入っていたため、現場所長になぜ膨張コンクリートや繊維補強コンクリートを使わなかったのか聞くと、コスト面で厳しいということ。ならば高性能AE減水剤はどうかと聞いたら試験練りの1カ月が必要のため、短期間の工事では新しい材料を使いにくいとのことでした。私にとっては意外でしたが、新しい材料を標準のものとして積極的に認めていくような考え方がまだまだ足りないと感じます。

十河―コンクリート巻立てなどでひび割れに対する配慮がない現場はまだかなり多い。コンクリートは収縮したらひび割れが入りやすいが、薄肉のコンクリートは高強度にするため、自己収縮によるひび割れが起きやすくなる。それを抑えるには膨張材が効果的。また、基本的に強度とひび割れは反比例するので、強度を求めるとひび割れは入りやすくなる。もう少し初期ひび割れのことも考えないと。このことを忘れ、強度さえあればひび割れは入らないという方向に進むのはすごく怖いことだ。先の建築学会の話も水・セメント比を下げれば高耐久になるのは中性化に対しての話で、ひび割れに関して言えば水・セメント比を下げれば入りやすくなる。ただ、水・セメント比を下げて緻密なコンクリートを作ることは劣化因子が入る速度を遅くする意味でも非常に重要であるので、ひび割れが入りやすくなることを想定し、ひび割れ対策を並行しながら水・セメント比45%以下、50%以下とする必要がある。土木も同じことで、ひび割れ対策を同時に行わないと、劣化因子が入る道を作りながら、組織は緻密という矛盾したことになってしまう。鈴木―もっと多面的に見る必要がありますね。例えばスランプ8cm、水・セメント比55%では締固めが大変なのでスランプ12cmへの変更を求めても受け入れられないケースもありました。杓子定規に決めつけるのではなく、どうすれば良いものができるかを判断する技術力・判断力が重要だと思います。

江良―狭隘な場所に流動性の低いコンクリートを打設する際、施工上の工夫として型枠の一部をクリアにして目視できるような工夫もするが、もう少し材料面の緩和などの環境づくりができると嬉しい。
 
十河―共通仕様書などでもコンクリートは固い方が良いという昔ながらの概念が続いている部分があり、現場でスランプ8cmの縛りというのは確かにあるようだ。だが、現場の状況を考えて、硬化後の品質を確保すれば、施工しやすいスランプに変更して良いはずである。2007年版のコンクリート標準示方書でも現場の施工性に合わせたスランプに変更して良いことになっているが、なかなか浸透していない。

川端―直轄の場合、示方配合を変更する場合は協議書で受け付けている。鉄筋配置等を考えるととても8cmでは打てない場合もあるが、変更を許容しないケースがあるならば改善が必要だと思う。

鈴木―最後に、これまでの課題を踏まえ今後の新技術・新工法への期待を伺いたいと思います。

川端―昨年2月に道路橋示方書が改訂され、維持管理の確実性という言葉が理念として盛り込まれた。これは我々の分野からすれば非常に心強いことで、今後できる構造物のメンテナンスはやり易くなるだろう。特に施工したときの記録をしっかりと残すことは重要だ。また、整備局では新技術の活用促進説明会を毎年行っており、補修・補強分野の新技術も多く発表されている。このような機会を施工者・コンサルの皆様に十分に活用していただき、いまどのような技術の進展があるかを見極め、使っていただければと思う。

十河―土木学会のコンクリート標準示方書も今春、5年に1度の改訂が行われる。広島でも4月末から5月には改訂要点についての講習会が開かれる。設計編、施工編と比べて新しい維持管理編だが、色々な劣化事例ごとの対応など、段々と充実したものになっており、補修・補強を勉強される方にはぜひ活用し、大いに勉強してほしい。また、実際には人が判断し人が行うものであるので、診断・補修・補強のスペシャリストの育成は非常に重要だ。この分野は試験合格すればプロということではないし、プロでも人によって判断が違う。若い技術者はとにかく損傷の現場をたくさん見て学ぶ機会を増やし、仲間同士で研鑽を重ねながら新しいことをどんどん追求してほしい。また、発注側には優れた技術者を評価できるよう、インセンティブとペナルティの仕組みを制度として作り、補修分野をもっと高度なものにしていただきたい。
 
川端―発注者も現場力の再構築をキーワードに技術者育成に大々的に取り組んでいる。技術力向上のためには各分野の連携が必要だ。

十河―現場を見ながらの勉強会のようなものも積極的に開いていければ良いと思う。

江良―新技術・新工法が出ていることは、色々な会社や立場の方が関心を高めている証拠だ。私が取り組んでいる亜硝酸リチウムも中国地方整備局の「橋梁の補修・補強手引き」にも標準工法として取り扱っていただけるようになったほか、四国地方整備局からは3大損傷のASRの補修事例として亜硝酸リチウムの内部圧入工法が紹介され、日経コンストラクションの「必ず押さえたいコンクリート診断の重要用語40選」でも取り上げていただいた。また、材料としてだけでなく方法としての開発も増えており、最初はひび割れ注入と表面被覆だけであったのが、内部圧入や新しいカプセル式の技術も実用化され、塩害対策や中性化対策、ASR対策などの現場で稼動している。さらに、(一社)コンクリートメンテナンス協会の「コンクリート構造物の補修・補強に関するフォーラム」も昨年も全国20カ所で開催、延べ3000人にご参加いただいた。質問のレベルや参加者の意欲は年々高まりを見せ、今後もますます加速すると思うし、その受け皿としての我々の働きも要求されてくると感じている。

鈴木―確かに亜硝酸リチウム関連の技術はかなり進み、普及してきましたね。良いモノはしっかりと口コミで伝わるものだと感じます。塩害に対する最後の切り札といわれ、コスト面の高さが問題視されていた電気防食もこの10年で随分安くなったようですし、さらに普及すればもっと安くなると思います。たくさんの技術があるので、設計者としてもどれを採用すれば良いかは悩みの種ですが、国交省の新技術活用促進会なども通じて勉強を重ねる必要があります。最後に、興味深い事例をご紹介して終わります。数年前、三次市内に架かる巴橋を通ったところ、中学生が橋の歩道の清掃をしていました。気になって調べてみると三次中学校が「全校ボランティア」と呼んで地域の清掃を定期的に行っていることがわかりました。構造物の維持管理にとって地域ボランティアの応援は非常に大きいものです。きめ細かい管理、効率的な対策でトータルの補修費用を抑えることができるからです。地味な事例ではありますが、このような地域との連携による維持管理も考えていければ良いのではないでしょうか。

絹井―本日は貴重なお話をどうもありがとうございました。